昼過ぎ。なにもない時間帯。
学校がある日なら授業がある時間だけど、ない日はいつもこんな感じ。
もちろん、魔法の訓練とか、魔術の勉強とか、色々とやることはあるけど毎日するわけじゃないから、
少し前までの戦いがウソのようにオレ達6人は平和に生きていた。


いつも一緒にいるオレ達でも、さすがに24時間一緒というわけじゃなくて、
昼過ぎはみんなが思い思いの行動をとっている。


ウィンとライナはリビングでテレビを見ているし、アウスは調べ物があると言って図書館に。
ヒータは今日の料理当番で、食料の買出しに出かけている。


オレはというと、なんとなく疲れていたし、特にしたいこともなかったから、
昼寝でもしようと思って、2階の寝室に続く階段を上っていた。
そういえば、エリアはどこに行ったんだろう……

2階に上がると、寝室のドアが少し開いていた。
あれ、おかしいな。いつも閉めているはずなのに。

 

部屋に入ると、ベッドの真ん中にエリアが仰向けで寝ていた。


6人が寝れる、かなり大きなベッド。特注品らしく、かなり値が張ったらしい。
いつも布団を2人で共有して寝るけど、寝返りを打ったら誰かとぶつかるとか、わりと日常茶飯事。
けど慣れって怖いもので、もうそれくらいじゃみんな起きなくなった。


布団は全部干しているし、昼寝だから別にどこで寝てもいいような気もしたけど、
今週はエリアと布団を共有しているので、特に何も考えずに靴を脱いでエリアの隣に進んだ。
そして横になる前に、寝ているエリアを見る。


綺麗な長い髪。穏やかな寝顔。そんなお嬢様、というより清楚な感じとは裏腹に、
ダボダボに履かれたソックスに、ミニスカート。そしてそこから無防備に見える生足。
お嬢様のような清楚さと、家族だから見られる街娘のようなだらしなさの合わさった姿。
その姿がとても扇情的に感じてしまい、ついつい眺めてしまう。

 

「…………はっ」

 

意識を取り戻す。数十秒ほど見つめ続けていたかもしれない。
おかしいな。いつもはこんな事ないはずなのに、今日はエリアに対して妙にドキドキする……。
どうしでだろう──と考えてみたら、理由はすぐに思いついた。


よく、仕草や喋り方が女の子らしいと言われる。
ずっとエリアたち5人と暮らしているから、色々と女性的になっているのは自分でも自覚してるけど、
でも、オレは生物学上は男性だし、男性特有の生理現象とかがどうなる訳でもない。
前にこんなことになったときは、みんなにばれないようにこっそり処理しようとしたけど、アウスに気付かれて色々といじられた。
だから、それ以降はずっと処理はしていない。
たまに今日みたいな日があっても、ライナたちといれば自然にそんな気持ちは消えてゆく。


今日はたまたま、その……悶々となる日なんだろう。そして眠いから、ちょっと理性的な思考が欠けてるのかも。
そんな日に、寝ているエリアを見てしまったから、少しよこしまな考えが出てきたのかもしれない。
もっとも、そういう風に考えられるくらいには、まだ理性的に考えられるみたいだから、ひとまず安心だ。
こういう時は、何か間違いを起こす前に寝るに限る。
思考を断ち切り、横になって目を閉じた。

 

……寝れない。
それどころかどんどん動悸が激しくなる。


エリアの髪から香るシャンプーのいい匂い。前はその匂いが気になって寝れなかった事もあった。
ただ今日は、それがオレの理性を奪っている。


「んん……」


さらに、時々漏れる寝声も、オレの理性をどんどん削ってゆく。
オレは飛び起きる。眠気はもうどこかに吹き飛んでしまっていた。
湧き上がった悶々とした気持ちを抑えきれない。
起きて目に付いたのは……エリアの髪。
オレはいたたまれない気持ちを抑えきれず、エリアの髪に飛び込んでしまう。
……少しして、ようやく我に返った。


「う……ヤバい」


自制が効かない。どう考えても今の自分の行動はマズい、というか、ヘンタイそのものだ。
エリアから離れようと思ったが、オレの本能だかなんだかはそれを許してくれない。


「……しょ、しょうがない」


もう一度ここに戻る、と自分に強く言い聞かせたら、なんとか体が動くようになった。
だがエリアから少し離れたとたんに、エリアへの欲情が更に強まる。エリアのそばに居たくなる。
これじゃあ、ここ以外で寝るのはムリそうだ。というより、寝る場所はここにしかない。
しょうがないので、少しの間だけ自分を取り戻している間に、
オレは自分の部屋にある物を取りに向かうことにした。


なんとか自分の部屋にたどり着いたオレは、引き出しの奥から『手錠』を取り出して、寝室に戻る。
かなり昔に、自分にはめられていた物だった気がする。


この家に来てからは使うことがないと思っていたが、最初、みんなと生活し始めた頃は、
「男の子がいるのに無防備で寝れない」などと言った子がいて、
オレは同い年の子どもなのに何言ってるんだ、と思いつつも、
その頃のオレ達はまだ全くお互いの関係を知らない「他人」だったから、
唯一男子だったオレの立場が弱かったのと、警戒される対象だったのはある程度仕方なかった、とは思える。
結局、オレ一人用のベッドを買うわけにもいかず、かといって一人だけ床とかで寝るのも嫌だったから、
話し合いの末、寝る時はヘンな行動を起こさないよう、手錠を付けて寝る、ということを初めはしていた。
それが今は、オレがヘンな行動を起こすどころか、みんながオレにくっついてくるようになって、
初めのうちはみんなが色々とぎこちなかった事を思い出させる、笑い話のようなものになっている。


そんな手錠を、かなり久しぶりに使う。
エリアに何かヘンなことをしてしまわないようにだ。さっきやっちゃったけど……
少しばかり残った理性で出した結論は、「とりあえず手錠をはめておけば最悪の事態は避けられる」
というものだった。というよりこれ以外の方法は、今の自分に考えられなかった。
とにかくお互い合意などではなく、オレの欲望だけで手を出すのはダメだ。
けど、頭の中で、「エリアはキミの事好きなんだから、襲っちゃっていいんじゃないの?」
という、堕落に誘う声が響く。しかもエリアの声で。
そんな事はしちゃいけない。けど、このままだと本気でそんな事をしちゃいそうだ。

 

寝室に戻った。自分に手錠をはめて、サイドテーブルに鍵を置く。
そして、寝ているエリアの隣に戻る。
これで大丈夫なはずだと、もう一度エリアを見たのが災いした。


「ん……んん……だるくぅ……」


エリアが、どんな夢を見ていたのかはわからない。
けれど、こちら側に寝返りを打っていたエリアの寝顔を見たのと、そのオレを呼ぶ甘い声を聞いたのは同時だった。
残っていた、オレの理性は崩壊した。


「エ、エリア……っ!」


そのまま襲い掛かるようにして、エリアに飛びついていた。
手錠をしていたので恐れていた事態は免れたけど、上からしがみついたような格好になってしまった。


「ぅん……あ……えっ……?」


飛びついた衝撃で、エリアの目を覚ましてしまう。こ、これはヤバい。
目が覚めたエリアはしがみついているオレを見て、


「わあっ!?」


防衛本能か、そのまま渾身の力でオレを突き飛ばしてきた。
だがエリアの弱い力で、しがみついているオレがそのまま飛ばされるはずもなく、
逆に、巴投げのような体勢でエリアをこちらに引き込んでしまう。
……結果、オレの上にエリアがのしかかる形になった。


「うぁ……っ」


そのままエリアに押し倒される。
押し返そうとしても、手錠が邪魔で手を動かせない。
それに加えて、お腹に当たっているエリアの胸の感触が、離そうとする意志を無くす。
オレは完全に脱力してしまい、何もできないまま、おそるおそる、エリアが起き上がるのを待つ。


……少しして、エリアが顔を上げた。


「あ、あれ……そっか、私疲れてたから寝ちゃって……ってダルク!?」


独り言を言っている途中で、エリアはオレに気付く。
……妙に息が荒いオレに。


「え……私今までなにやって……!?」


そこまで言って、ようやくエリアは今の状況に気付いた。息の荒いオレと、それを押し倒している自分。
……ついでに、オレの手についている手錠。


ひとしきりの沈黙のあと、エリアはオレから離れた。顔がかなり赤くなっている。
さっきまであった異常な情欲は、完全になりを潜めていた。
同時に、オレは自分が今までした行動に……気付いてしまった。
……どんな言葉を浴びせられるんだろう。予測がつかない。
ただ、オレのやったことはどう考えても……さっきやったことをエリアが気付いているかはわからないが、
自分のやってしまったことは責められるべきだと思う。
だから、どんな事をされたとしても、言われたとしても、それはオレの自業自得だろう。


オレは、エリアの言葉を待った。
……けど、エリアの言った言葉は、オレの予想を遥かに超えた言葉だった。


「そっか……ダルク、私にヘンなことされて興奮しちゃったんだ……」


……え?


「そ、そうだよね。男の子だからね……私が悪いんだよね」


「い、いや待って……」


よくわからないけど、エリアは何か勘違いをしているみたいだ。


「ん?」


「いや、そうじゃなくて、これは……」


「ごめんね、ダルク。私、ダルクにヘンなことしちゃってた」


「いや、だから違う……」


「違わないよ。だって」


「ぁうっ!?」


エリアにオレの股間に手を沿えて……撫でられる。
味わったことがない快感を受け、オレは上ずった声を上げてしまう。


「ココ、すっごく大きくしてるし」


「こ、これは……」


これはさっきからエリアに興奮してしまった結果、なってしまったモノだ。


「私がダルクに抱きついてたから、ダルク興奮しちゃったんだよね」


「ち……が……」


そうじゃない。オレがヘンな気持ちを起こして、勝手に興奮しちゃったんだ。
反論しようとするが、エリアに外から撫でられた、6人のなかでオレにだけあるそれは、どんどん大きくなってゆく。


「ほら……違わない。こうなったら、責任取るから」


「せ……責任?」


本来は、それはオレがエリアに言うべき言葉のはず。


「う、うん。私は、よく知らないんだけど……
 男の子のココがこうなっちゃった時は、白いモノ出せば、元に戻るんだよね?」


エリアの言うことも一応間違ってはいない。いないけど……


「エリア……今日はどうしたの? ヘンだよ?」


自分がヘンなのを棚に上げて、聞く。
結構恥ずかしがりやで、こういうことに免疫がなさそうなのに……
当初、オレは叩かれたり、逃げ出されて口も聞いてくれなくなったりする、といったことも覚悟していた。
……けど、実際は逆というか、斜め上の反応だった。


「うん……なんか今日は、ダルクに対してヘンな気持ち……」


……どうやら、エリアもオレほどじゃないにしろ、同じような症状が起きているみたい。
でも、それだと普段の時はどうかわからないわけで……


「いや、でもさ……悪いよ」


オレだって年頃の少年、そういうことに興味は……ある。
ただ、さっきの自分の行動を顧みると……


「ダルクは……私にこういうことされるの……嫌?」


真っ赤に染まったエリアの顔。

……嫌とは言えなかった。
エリアがそうしたいのなら、そのほうがいいのかな。
体を動かさないで、首だけ横に振る。


「……いいんだよね?」


首を縦に振った。
オレはともかく、エリアがそれで満足するなら、それでいい。


「じゃあ……いくよ」


そう言って、エリアは立ち上がり……オレの股間を踏み──


「ってうわぁぁあ! ちょ、ちょっと待って!」


快感──とともに痛み──が走り、たまらずオレは叫び、ストップをかける。


「え、え、どうしたの? い、痛かった? ごめんね」


何が起こったかわからず、慌てるエリア。


「な、なんで踏むの!?」


「え、えっと、ダルク手錠付けてるし……」


「こ、これはそういう意味じゃないって!」


「じゃあ、どういう意味なの?」


……今ここでいう勇気はなかった。


「そ、そのことについては後で話すから! いや、というか手錠が付いてるからってなんで踏むの!?」


「そ、それは……」


さらに恥ずかしそうに、エリアはうつむく。
そもそも、こういうことに関しての知識が、エリアにあるとは思えない。つまりは……


「誰かに吹き込まれたの……?」


純粋なエリアに、そういった知識を吹き込んだ奴がいる。
そして、そういうことをエリアに教えそうな奴……


「う、うん。ライナが、ダルクはどちらかというと受け身だから、
 ヘンな気分になった日は、積極的に責めたほうがいいって」


……やっぱりライナだった。


「で、ダルクはちょっと強引にされても大丈夫だからって教えてもらって、
 今、ダルクが手錠つけてるから……」


……オレはライナに個人的制裁を加えることに決めた。
うーん、どういった制裁をしようか……と、その前に。


「で……どう? 大丈夫……なの?」


自分のしたことで、オレを痛めつけてしまったことを心配しているエリアに、
ちゃんと言葉を伝えないと。


「えっと……上から足で踏むのはやめて欲しいな……。
 確かに気持ちいいけど、痛い……」


気持ちいいのは確か。けど、それ以上に痛い。
さすがに痛みに耐えつつ快感を享受するのは、ちょっとつらい。


「えっと、じゃあ……座ってするね」


……足でするのは変えたくないらしい。
たしかに、口でくわえたりするよりは……抵抗感がないけど、ちょっとこれは……
やってもらってる立場で、更にさっきのこともあるし悪いけど、こういうことは、はっきり言わないと。
よし、言おう。


「ソックス脱いだほうがいいよ……
 衛生上安全だし、ソックス履けなくなっちゃうし……」


って、ちがぁーう!
何言ってんだオレは!
止めさせるはずなのにアドバイスしてどうすんだ!


「あ、そうなんだ……。確かにそうだよね、ありがと。
 じゃあ、脱いでするね」


そう言って、エリアはソックスを脱いで、オレの足の先あたりに座った。
エリアの裸足があらわになり、オレはまた、過度の興奮を覚える。


(待て……なんでこんなに興奮してるんだ、オレは……)


更に言えば、問題はそこじゃない。
エリアにこのまま足でさせていいのか?
今からでも手でさせたほうがいいんじゃないか?
いやでも、エリアは足でしたいみたいだし……


「えっと……そうだ、下着脱がさなきゃ……」


一生懸命に頑張るエリアを見て、オレは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
特に何も思わずにいれば、少々そういったものに興味を持ち始めた少年少女がちょっと大人めいたことをしてみる、
といった感じだけど(それでも行き過ぎてるけど)、さっきの自分の行動から、なかなか自分を納得させられないでいた。


「よいしょ……きゃっ」


下着が脱がされ、ここに住んでいる者で、オレだけに存在する「それ」があらわになる。
みんなと一緒にお風呂に入ることはあるけど、いつも厳重に隠したり早めにお風呂から上がっていたりしているので、
少なくとも物心付いたときからは、エリアがオレのそれを間近で見たのは初めてになる。


「これが、男の子の……」


エリアに「それ」を見つめられ、オレのその部分がどんどんと首を擡げてくる。
恥ずかしいような嬉しいような奇妙な気分でいると、エリアは意を決したのか、その部分に向かって脚を伸ばしてきた。


「う……あ……」


今までに感じたことのない、すさまじい快感。
上ずった声を上げて、オレは体をくねらせてしまう。


「ダ、ダルク、だ、大丈夫……?」


また心配させちゃったみたいだ。


「だ、大丈夫。気持ち良すぎて声を上げちゃっただけだから……」


「そうだったんだ……あ、そういえば、ローションつけないと……」


これつけなくちゃ痛いみたいだから、と言って、エリアはどこからか透明な液体を取り出した。


「ちょっと待って……そんなものどこから……?」


「えっと……クリッターさんから貰った物の中に、たまたまあって……」


あの人(悪魔だけど)、なんてもの押し付けてるんだ……

使い方がわからない(オレもわからないけど)エリアはとりあえず、ローションを手に塗り、
そのままオレのそれに塗りたくって……


「っ、あっうっ!」


……ローションを手で塗るためには、直に触れる必要がある。
つまり、手で弄られてるということで……
自分でも弄ったことが数回しかないのに、女の子に手で触られる快感は予想を激しく超えていた。
これを受け続けたら快感で頭がおかしくなってしまう。
その分足ならどうにかなるか……
そう考えて、オレはエリアの手の攻撃をなんとか凌ぎきって、エリアが元の体勢に戻る前に呼吸を整える。



エリアが足でオレのそれを弄り始めてから少し経った。
顔を上げてエリアを確認すると、照れ笑いの表情をしていた。
……けど、オレの視線に気付くと、急に顔が真っ赤にした。


「ダ、ダルクぅ……」


「え、え、どうしたの?」


「そ、その……」


エリアは何かを言いかけて、止めた。
エリアが何を言いたかったのか全くわからなかったオレは、そのまま追及してしまう。


「なに? 何かしちゃった?」


エリアは少しもごもごとしていたが、やっと口を開き、


「そ、そのさ……あんまりこっち向かないで。顔を上げると……見えちゃうから」


と、言った。
……え? 見えちゃう?
視線を下に落とすと……


「……あ」


エリアはスカートを履いている。
そして座って、足を伸ばしている。
つまり……パンツが……


「ちょ、ちょっと、みないでってばっ!」


エリアは慌てているけど、こういう状況上、見てしまったらやめられない。


「ほ、ほらよく着替えとか見ちゃうことあるし」


……言い訳までしてしまう。


「だからって、そんなにガン見されたら恥ずかしいよっ!」


今やってることは恥ずかしくないのかと思いつつも、視線は釘付けになったままだ。


「ダ〜ル〜クっ!」


ついに怒ったエリアは一旦足を止め……


「う、うわぁぁあっ!」


オ、オレの袋のようになったところをいじってきた!


「いたっ、うぁ! そ、そこはやめてぇっ!」


「じゃあみないでっ! あんまりしつこいと本当に踏んじゃうよ!?」


「わ、わかったからやめてぇっ!」


エリアが足を離すと、オレは頭をベッドに戻した。


「あ、危ない……もう少しで変な性癖が芽生えるところだった。エリア恐るべし……」


「私だってこんな性癖ないよっ!」


「ご、ごめん」


「……もう」


少しして、ようやく落ち着いたのか、エリアは作業を再開した。


「……ねえ」


しばらくして、エリアが口を開いた。


「なに?」


「ダルク、さっきからなんか迷ってるような気がする」


「迷ってる?」


「うん。なんか、私にこうされるの、なにかのせいで拒んでるような、そんな感じ」


それはきっと、さっきの自責の念が残ってるからだろう。


「私が起きる前に、ダルクが何をしてたのかはわからないけど……今は、私のわがままでこうしてるわけだから。
 だからダルクがイヤじゃなければ、そのまま受け入れてほしいな……」


エリアの言葉がオレの迷いを振り払った。
そうだ。さっきオレがしたことを許す、許さないにしろ、
今はエリアがしたいことを、受け入れる……いや、受け入れたい。


「……あとでオレの話を聞いたら、怒るかもしれないよ。それでもいい?」


「うん、いいよ。そもそも、私だってこんなことしてるんだから、人のこと言えないよ」


「じゃあ……エリアに任せるよ」


そう言って、オレは体の力を抜いた。
もともと疲れていたし、抵抗する力もほとんどなかったから、完全に無防備な状態になる。


気持ちいい。
最初に踏まれたのは痛かったけど、いまされている行為は、今までにない心地よさだった。
だんだんと息が荒くなって、脱力していた体も気力を取り戻してくる。
そして……


「……う」


「どうしたの、ダルク?」


「も、もうすぐ、出る……」


「で、出るって、白いのが?」


「う……うん」


今まで数えるほどしか出したことがない、白い液体。
それが、女の子に、エリアに、出させてもらう。
そう思うと、出したくなる気持ち――確か、射精感と言った気がする――が、さらに強くなった。


「エリア、オレ……もうっ!」


「え、え、どうすればいいの!?」


「とりあえず、大量にティッシュをそこに当てて! 早く!」


「う、うん!」


ベッドも、エリアも汚すわけにはいかない。
エリアがティッシュを当てる頃には、オレはもう限界だった。


「〜〜っ!」


言葉にならない声と言葉にできない快感ともに、白い粘着性のある物体が大量に飛び出る。
エリアが用意したティッシュも全部ベトベトにするほど、それは長かった。


「はあっ、はあっ……」


「す、すごい匂い……」


ティッシュから漏れる臭いに、エリアが感想を述べる。
当のオレは、さっきまでの戸惑いがウソのように満足していた。
体も、妙に軽い。


「えへへ……出しちゃったね……」


そう言ってはにかんだ笑顔をしながら近づいてくるエリアを純粋に抱きしめたくなる衝動に駆られながら、
それを押し殺してエリアをとどめる。


「あ、ちょっと動かないで。足と手、拭かないと」


「そ、そうだったね。においついちゃってるもんね」


納得したエリアは、そのまま足を付けないように仰向けになる。


「じゃあ、濡らしたタオル持ってくるから」


「ありがと。もう動いて大丈夫なの?」


「うん、すっきりした……って、手錠外さないと」


「あ、そうだったね」


なんとか手錠をしたままでも鍵くらいは持てたので、エリアに手錠を外してもらい、
部屋の外に出てタオルを取ってくる。
なんか家の中が妙に騒がしかったけど、気にしてられなかった。



エリアの足と手を吹き終わってから、オレはエリアが起きる前までのことを話した。
妙に悶々とした気分だったこと、エリアの髪にダイブしてしまったこと、
このままだと危ないので手錠を掛けたこと。


「そうだったんだ……」


「……怒ってもいいんだよ?」


「ううん、私も同じような気持ちになって、同じようなことしちゃったし。お互い様だよ」


「でも、オレはあのままだとエリアを襲っ……」


「そうしないように、自分に手錠を掛けてくれたんでしょ?」


「で、でも……」


「ダルク」


ちょっと悲しそうな声。


「ダルクがそうしなかったら、私もこんなことできなかったし、今も勝手なことしちゃったかなって思い続けちゃうよ。
だから……そう否定されるのは、ちょっと悲しいかな」


ちょっとと言いながら、かなり悲しそうだった。
胸がズキリと痛んだ。


「エリアの言うとおり、オレもそう認めたい。
 ……けど、なかなか自分でそれを許せないんだ」


「うーん、私、どうすればいいかな……」


オレはエリアの、ついでに自分のためにも考える。


「自己満足かもしれないけど……オレのやったことに対して、罰をくれれば」


罰を望む。
自己満足かもしれないが、形式的にもそれは自分のために必要だった。


「しょうがないなぁ……」


エリアは少し考えた後、


「じゃあ、歯を食いしばって、目を閉じて」


と言った。
つまりは、一発殴らせろ……ということだろう。仕打ちとしてはもっともかな。
オレは目を閉じて、殴られる準備をする。
エリアが近づくのがわかる。
そして……

ぽかっ、と可愛らしい音が聞こえた後に、おでこに少し衝撃が走った。


「うわっ!?」


予想していなかった感触に混乱しているオレを気にせず、エリアはオレのおでこを可愛らしく殴り続ける。


「パンツみないでって言ってるのに見続けるなーっ!」


「そ、そっち!? いたっ、いたっ!」


「恥ずかしかったんだからね!? 他のどれよりもかなり恥ずかしかったんだからね!?」


「わ、わかったから、許してえぇっ!」


数十回おでこだけを優しく殴られ、オレは罰を受け終わった。


「とにかく、今回は私もダルクもちょっとおかしかったんだし、
 たぶん他の何かが原因だったから、もう気にしちゃダメだよ」


「……うん」


「今回のことでそんなに気にしてたら、洗脳とか使う敵と戦った時にどうするの?
 ダルク、自分の心配だけで衰弱しちゃうよ。……私もそういうタイプだけど、さ」


……たしかに、こういうことでそういった気持ちになっていたら、
これから先、洗脳とかを使う敵と戦うことになったときに、余計な心配事をさせてしまう。
今回は、そんな教訓にもなった。
けど、オレとエリアがこんな風になった原因の何かって、なんだろう。
……と、その前に


「しかし、エリアにライナは……」


そう言い掛けた矢先に。


「ダル君〜っ!」


今回の事件の原因?がドアを開けて、オレに飛びかかって来た。


「ちょっ、ライナっ!」


受けきれず、ベッドに押し倒される。
ライナを見てみると、顔が紅潮している。
ヤバい、このままだとエリアの二の舞になる……と思ったけど、ライナなら話は別だ。
逆にライナの肩をつかんで、そのまま押し倒す。


「ひゃうっ」


ライナは押し返そうとじたばたしたけど、いつもの力はなく、逆転仕返されることはなかった。
危ない……ライナのほうが力が強いから、本気で来られたらダメだった。


「あはは……ダル君に無理矢理されるのもいいかも」


オレはそのまま体重をかけた。


「ちょ、ちょっと待ってダル君! ギブギブ!」


「その『ギブ』はどっちの意味?」


「ギブアップの意味です! 何もしないから助けて〜!」


オレはライナから離れた。


「ふう……助かったぁ……」


ライナの顔はまだ赤いままだったけど、こっちに飛びかかってくる様子はないので一安心。


「いいなぁ、二人とも。私もダルクにそうやってできたらなぁ」


「勘弁して……」


ライナが飛びかかって来るのだって慣れるのに時間かかったし、幼かった頃だからよかったけど、
今、エリアに同じことをされたらいろいろと我慢できる気がしない。


「それに、エリアのキャラじゃないし」


「真面目なエリアがあえてそうするっていうギャップが……いたっ」


ライナをチョップで黙らせた後に、今回のことについて問い詰めようとする。


「ライナ、エリアに……」


「あれ、なんかヘンなにおいがする……もしかして、お取り込み中だった?」


……しまった、気付かれた。
エリアは横を向いた。


「いいなー、エリア。うらやましいな」


「お前が教えたんだろ……」


「で、でもダルクに気持ちよくなってもらっただけだから……」


「あ、そうなんだ。じゃあ、ダル君のはじめてはライナが貰っ……いたっいだっ」


三発ほどチョップを加えておく。


「ライナ……今日はセクハラ的な発言が多いんだけど」


いつもライナとはこんな感じだけど、今日はちょっとヘンな発言が目立つ。
ただ今日は、オレもエリアも人のことが言えない。
みんな、妙に貞操感が薄れている。


「あ、うん、そうだそれを伝えにきたつもりなんだよ。伝えにきたつもりなんだけど……」


「さっきみたいになったのか……」


「う、うん。ごめんダル君」


「いいって。落ち着いた?」


「うん、ある程度は」


って、待てよ?


「と言うことは、今日オレ達がヘンな気分なのはライナが原因じゃないの?」


「え? そんなわけないよ。ライナがそんなことしてダル君の気を引く訳ないし、
 誰かをおかしくしたりもするわけもないでしょ」


確かに、ライナは何か策を練って人をそそのかすタイプじゃない。というよりそんな考えすらしないだろう。
けど考えられる原因としては、効用を知らないライナのいたずらかと思ったけど、
今のライナを見るに、そういうわけでもないみたいだ。


「じゃあ、何が原因でこんなことに?」


ライナのいたずらじゃないとすれば……というか、
三人同時に発症しているわけだから、そこから考えないと。


「みんながいっぺんに発症してるわけだから……考えられるのは……昼ご飯?」


「うん、私もご飯食べてからヘンな気持ちになって、それで寝たら直るかなって……」


ご飯の後、エリアがすぐにいなくなったのはそういうことだったのか。


「でも、今日の料理当番はヒータだよ。ヒータがそんなヘンなことや失敗するとは思えないし……」


今日1日はヒータが料理当番で、昼は残っていた材料でハヤシライスを作った。
ヒータは一番料理が上手いし、そんなヘンな作用がある何かは使わないはず。
それに、ヒータの性格上、自分で昼ご飯と言っておいてなんだけど、まず有り得ないことだと思う。
色々と考えている間に、ライナが手をぽんと叩いた。


「あ、思い出した」


「なに?」


「うん、たしかウィンが、ヒータが見てない間に隠し味を入れたって、テレビ見てる時に言ってた」


「隠し味?」


「うん、クリッターさんから貰ったって」


……原因はもしかして、それか。


「そういえば、アウスが食べてる時に首をかしげてたね」


エリアも、思い出したように言う。
そういえば、アウスは今日、食べるのがやけに遅かった。結局全部食べてたけど。
アウスは性格上レシピ通りに作るから、料理にアレンジがされているとわかるようだ。
だから、料理にあまりに不思議なものがあるとわかったんだろう。
ただヒータの作ったものだから、問題はないと判断して、そのまま食べきったのかもしれない。


「で、そのウィンは?」


「えっと……帰ってきたヒータに襲われてる」


ライナによると、顔を真っ赤にして帰ってきたヒータが、そのままウィンにダイブ。
オレがタオルを取ってくる時に聞いた物音はそれだったらしい。
その後、ライナはオレたちを探しに来たが、途中で効用が出てきてしまい、さっきみたいになった、と。


「うーん……人騒がせな」


今日も今日で、ウィンが騒ぎを起こして、それにオレたちが巻き込まれる形となった。


「けど、私にとっては……よかった、のかな? ダルクにとっても」


「……そうだね」


まあ何はともあれ、エリアにとっても、オレにとってもいい事だった……はずだ。


「……続きは大人になってから、かな」


エリアとライナを見ながら、オレは呟いた。
今日みたいなことには……当分、ならないと思う。体持たないし。


その後クリッターさんを問い詰めたら、
その原因となった薬には一時的に性欲増進と、
男性なら男性的な、女性なら女性的な思考(というか本能)を深める効用があったらしい。
めずらしく男の子っぽいダルクが見れた、と二人は話してたけど、
当のオレは衝撃が強すぎて、あんまり何を考えていたか思い出せなかった。


……ちなみにその日、ヒータが顔を真っ赤にしながら床を転げまわっていたり(頼むからスカート履いて転げまわるのはやめて欲しい)、
妙にハイなアウスにオレたちがぎゅうぎゅうに抱きしめられたり、
みんな落ち着いたあと、ウィンはアウスにめちゃくちゃ叱られ、お小遣いを減らされたりしたのはまた別の話。



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